大阪高等裁判所 昭和41年(ラ)224号 決定 1967年2月14日
抗告人 立井金十郎
相手方 阪神麦酒販売株式会社
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一、本件抗告の趣旨及び理由は別紙に記載のとおりである。
二、当裁判所の判断
抗告人の事実上及び法律上の主張ならびにこれに対する当裁判所の判断は、左記に附加するほか、原決定理由欄記載のとおりであるから、ここに引用する。
(一) 抗告人は、原裁判所が、本件執行方法に関する異議事件について、被申立人として相手方を定め、その代理人である弁護士山口伸六をして手続に関与せしめ、原決定正本を相手方に送達したのは、民訴法五四四条による異議事件を当事者対立訴訟と同一の取扱いをしたものであつて、違法であると主張する。しかし、民法訴五四四条による異議事件については、その申立書に特に相手方を定めて掲げることを要しないが、裁判所は、必要ありと認めるときは、相手方を定め、審理のため手続に関与せしめうることはいうまでもないところであつて、原裁判所が被申立人として執行債権者である相手方を定めたのは相当であり、この点について原決定には何ら違法はない。論旨は理由がない。
(二) 抗告人は、民訴法五四七条の仮の処分については、同法五四八条により判決中で右の仮の処分を発出、取消、認可、変更し、かつ、その部分について職権で仮執行の宣言を付することとしているが、同法五四四条一項、五二二条二項の仮処分についてはかかる規定が存しないにもかかわらず、原決定が民訴法五四八条を適用して強制執行停止の仮の処分を取り消し、かつ、仮執行の宣言を付したのは違法であると主張する。しかし、民訴法五四七条の仮の処分はもとより、同法五四四条一項、五二二条二項の仮の処分についても、規定の有無にかかわらず、裁判をなすに至るまでという時期的制約をいずれも担つているのであるから、その裁判に上訴の道がある以上、常につなぎの措置として民訴法五四八条に規定されているような措置をすることが必要であつて、たとえ明文の規定がなくとも、民訴法五四八条の規定を類推して妨げないものと解すべきである。もつとも、本件においては、異議申立棄却の決定をなしたものであるから、強制執行停止の仮の処分は右異議申立棄却の決定がなされると同時に当然失効し、執行の続行は妨げられないのであつて、強制執行停止の仮の処分を取り消す裁判は執行手続に対して何らの新しい影響、効果を及ぼすものではなく、これが取消しについて仮執行の宣言を付しても実質的意味は全くないわけである。しかし、右裁判に対しては不服を申し立てることはできないのであつて(民訴法五四八条三項)、これがため、原決定に取り消すべき違法があつたとすることはできない。論旨は採用できない。
(三) 抗告人は、原決定添付の別紙目録記載の物件はいずれも申立外乾利治、同嶋崎義詮の所有に属するものであつて、右申立外両名が相手方を被告として大阪地方裁判所に第三者異議訴訟を提起したところ(同庁昭和四〇年(ワ)第二五〇九号事件)、右目録記載の物件中(一)、(三)、(五)、(六)、(一〇)、(一二)、(一六)、(一八)、(二〇)を除く物件について原告勝訴の判決が確定したとし、その余の物件についての敗訴判決を非難するのであるが、所論は、要するに、本件強制執行(差押)は抗告人及び相手方以外の他人の所有物についてなした違法があるというにある。しかし、当裁判所は論旨は理由がないものと判断するものであつて、この点についての当裁判所の判断も原決定理由四4と同一であるから、ここに引用する。
よつて、原決定は相当であるから本件抗告を棄却し、抗告費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 平峯隆 中島一郎 阪井いく朗)
(別紙)
抗告申立ての趣旨
原決定を取消す。
大阪地方裁判所執行吏田淵博代理西川正男が昭和四〇年五月二一日相手方より申立人に対する大阪地方裁判所昭和四〇年(ワ)第三七号約束手形金請求事件の仮執行宣言付判決に基づき別紙目録記載の物件に対しなした強制執行はこれを許さない。
との裁判を求める。
抗告申立ての理由
一、執行方法に関する異議の申立てには、手続上相手方を置かねばならないとする規定はないし、申立人の主張は執行々為の違法の是正にあるので、この申立てには相手方は無い。そうして、之に対する裁判は、申立人以外の者には、申立の全部又は一部認容といふのでない限りは何ら不利益を来さないし、又この裁判に対し抗告をする利益もないのであるから、裁判の告知をなす必要はない(執日本法規(株)発行「執行保全手続実務録(1) 」872頁19行目877頁6行目以下参照)。
そうすると、原決定が、当事者対立訴訟と同一の形式においた上で、相手方を被申立人として為されたのは違法であつたことになる、然も、相手方が弁護士山口伸六を訴訟代理人として、前記異議申立て手続に関与せしめたるは、相手方が当事者適格をもたないのであることを前叙事由に鑑み明白であるので、訴訟手続上無視せられて然るべきである。而して、原裁判所が職権で相手方を当事者であるとすることができるとしても、抗告人が異議申立てを全部又はその一部を認容されない以上は、手続上関与して行うとしてもその利益を持たない筈であるから、例え相手方が該手続に関与するとしても、当事者対立争訟ではないので、その点に於て判決手続に性質上反するために民事訴訟法第一編第四章第五節の規定の準用をうける理由はないのである。されば、原裁判所が相手方を便宜上該異議申立てに関与させたとしても、それによつて相手方に原裁判所の告知をした場合には、その告知の方法が適法であつたか否かと云ふことのみに限定して考察されねばならないことになる。
さて、該異議申立てに対する裁判は、相手方を被申立人として便宜上審理されたのであるにすぎないから、民事訴訟法上相手方は当時当事者ではないのである。故に原裁判所が該裁判の結果を郵便に付して相手方に送達するにより告知するは、名宛人でなき者に対して為されたるもので、その告知は不適法なるものといわざるを得ず、仮に弁護士山口伸六を相手方の代理人としてその者へ同様の方法を以つて告知せられてあるものとしてもその結果については、送達手続上の瑕疵を治癒せられたるものとしてはならないのである要するに、相手方が該異議申立てに対する裁判手続の進行状態等を勝手に法の定むる方法に則り調査したる上で、その裁判の結果を知るのであればいざ知らず、前記申した如く、執行方法に関する異議の申立ては違法執行の是正を目的として認められる不服申立て方法であるから、裁判の告知をするため手段のみであるとすれば、相手方を被申立人とする理由は絶無であるのである。
従つて、抗告人が為した該異議申立ては失当である場合であつても、裁判は決定の方式で為されねばならず、よつて原決定が為されたのであるから、すでに原裁判所が該異議申立てに対する仮処分として、抗告人の申立てにより昭和四〇年五月二八日に為したる強制執行の停止決定を取消し、尚且仮執行の宣言を付与したるは、裁判が終局判決の方式でせられたので無いから、民事訴訟法第五四八条を参照すると、無権限であつたことに相成り、この抗告人の行う不服申述べの限度では原決定は違法であり且つ無効であることは論ずる迄も無く明白である。
依つて、抗告人が本日茲に即時抗告に及ぶので、その事による原裁判の執行停止の効力は本件抗告に対する裁判が実行されるまでに及ぶのである(民事訴訟法第四一八条第一項第五五八条)此の立前に牴触する右違法の部分の原決定は不当でもある。
二、相手方は、抗告人及び相手方以外の他人の所有物について、有体動産の差押えをなしたる違法がある。原決定は、この点については申立外乾利治、同嶋崎義詮が共同原告として相手方に対し別紙目録記載物件中、(一)(三)(五)(六)(一〇)(一二)(一六)(一八)(二〇)を除く物件につき第三者異議訴訟(大阪地方裁判所昭和四〇年(ワ)第二五〇九号)を提起したるによる原告勝訴の判決が確定してをり(差押えの日時に於て抗告人の妻立井秋子は執行吏代理西川正男に、右に述べた有体動産が申立外乾利治、同嶋崎義詮のいずれかの所有であることを示すものとして、その証明資料として公正証書謄本、仲裁判断書正本(生野簡裁届け済書添付)等の原本を提示し旁々説明したのであるが之を無視せられた)抗告人に対する右動産差押えは違法であつたことが不可争のものとなつた。就中、右除外せる動産については申立外嶋崎義詮が自己の所有に属するとして、前示第三者異議訴訟の一部((一)(三)(五)(六)(一〇)(一二)(一六)(一八)(二〇)物件)敗訴の判決に対し、御庁へ控訴(昭和四一年(ネ)第九二四号事件)を提起し目下御庁第三民事部に係属中である。
三、而して、この控訴理由としては法理上、仲裁判断の更正があると、その判断は更正されたる判断が有つたときに遡及して効力を生ずるのであり、右仲裁判断更正が不適法とその他の瑕疵があつたとしてもその仲裁判断取消或は執行判決請求の訴えによるほかは現存する仲裁判断更正の効果を否定することはできない(有斐閣法律学全集38巻「調停法仲裁法」小山昇著89頁以下参照。)然るに右仲裁判断更正を新たな仲裁判断であると事実を認定するが如きは事実誤認且つ法令解釈適用を誤まつたものというべきである。
抗告人はこの見解は矢張り変更すべきではないと思料するのである。
四、依つて原決定は、全く以つて正当ではないというべきであるから、茲に即時抗告の申立を致す次第である。